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熟練者の「勘」をAIの力へ。インダストリー4.0を超えて日本流製造DXを実現する「デジタルトリプレット」と「ビジネスオーケストレーション」とは?

日本の製造業は今、大きな分岐点に立たされています。かつて「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と称賛された競争力は薄れ、デジタル化の波に十分に乗れないまま「失われた30年」を経て、国際競争力は低下の一途をたどっています。多くの企業が「製造DX」を掲げ、スマートファクトリー化やデータ活用に多額の投資を行ってきましたが、期待した成果を得られていないケースも少なくありません。現場には、いわゆる「DX疲れ」の兆しさえ見え始めています。

なぜ、日本の製造業においてDXはこれほどまでに難しいのでしょうか。その背景には、欧米型のデジタル化モデルをそのまま適用しようとする無理と、日本企業特有の組織構造・現場文化とのミスマッチがあります。本記事では、この閉塞感を打破する次の一手として、「デジタルトリプレット」と「ビジネスオーケストレーション」という2つの重要な考え方、そしてその実現基盤となるビジネスオーケストレーションプラットフォーム「TotalAgility」の必要性について解説します。

なぜ今、製造業でDXが停滞しているのか

部分最適なデジタル化の限界

現在、多くの製造現場で進んでいるのは、特定の工程や部門内で完結する「部分最適」のデジタル化です。RPAによる事務作業の自動化や、特定の生産ラインへのIoT導入など、個別技術の適用は進んでいるものの、それらが全社的な価値創出につながっていないケースが少なくありません。各社固有のやり方をそのままデジタル化した結果、汎用的なフレームワークや共通基盤を構築できず、デジタル投資から十分な価値を引き出せていません。

データはあるが、活かされていない現状

「ログデータは大量に収集できているが、どう価値につなげればよいかわからない」──こうした悩みも多く聞かれます。物理世界の状態をサイバー空間に再現する「デジタルツイン」を導入しても、そのデータをどう解釈し、次の改善(カイゼン)にどう結びつけるかという“判断”の部分が依然として人に依存している状況です。この、データと意思決定の分断こそが、製造業DX停滞の本質です。

デジタルトリプレットとは何か

デジタルツインとの違い

従来の「デジタルツイン」は、現実世界(フィジカル)と情報世界(サイバー)の「双子」の構造でした。これに対し、東京大学・梅田靖教授が提唱するデジタルトリプレットは、そこに「知的活動世界(人・現場の知恵・ノウハウ)」を加えた「三つ子」の構造を指します。(注1)

単に設備や工程の状態をデジタル化するだけでなく、熟練者が「なぜその設定変更を判断したのか」といった思考プロセスや意図までも形式知として取り込み、エンジニアリングサイクルの中に組み込む点が最大の特徴です。

製品・プロセス・オペレーションを統合する意義

デジタルトリプレットは、設計・生産・使用・メンテといった製品ライフサイクル全体にわたり、技術者の問題解決を支援します。これにより、現場の技術者はデジタル情報を主体的に使いこなし、自律的にエンジニアリングサイクルを回して価値を創出する「ナレッジワーカー」へと進化していきます。

日本の製造業においてデジタルトリプレットが特に重要な理由

組織構造と現場力依存という特性

日本の製造業の強みは、現場の熟練者や生産技術者の質の高さ、そして日々積み重ねられてきた「カイゼン」文化にあります。一方で、この強みは「属人化」や「暗黙知」という課題も内包しています。熟練者の退職や労働人口の減少が進む中、これらの現場知を形式知として整理し、デジタル基盤に移植することは急務です。

欧米モデルをそのまま適用できない背景

欧米の「インダストリー4.0」は、標準化されたプロセスを前提とするトップダウン型の自動化モデルです。一方、日本の現場は、状況に応じた臨機応変な判断によって高い品質と生産性を維持してきました。標準化を優先しすぎるモデルは、日本の最大の武器である「現場の創意工夫」を損なうリスクがあります。デジタルトリプレットは、こうした現場の工夫や差分を付加価値として捉え、デジタル化・共有するという「日本流DX」の勝ち筋を示しています。

DX・ITで何ができるのか、なぜそれだけでは足りないのか

これまでのDXでは、以下のようなツールが個別に導入されてきました。

  • RPA:定型タスクの自動化
  • AI:高度な分析や推論
  • BPM/プロセスマイニング:業務プロセスの可視化と改善

しかし、これらを個別に導入するだけでは、「部門の壁」を越えることはできません。多くの日本企業は、人に業務が紐づくメンバーシップ型の雇用慣行を持ち、プロセスやルールが暗黙的になりがちです。ツール間の連携を人が手作業で補完している限り、真の効率化は実現しません。求められているのは、個別のタスク自動化ではなく、業務全体を統合するビジネスオーケストレーションです。

ビジネスオーケストレーションという考え方

デジタルトリプレットを「動かす」中核概念

ビジネスオーケストレーションとは、プロセス・人・データ・システム・RPA・AIをエンドツーエンド(E2E)で仮想的に統合し、全体を指揮・制御するプラットフォームです。

業務全体を横断的に制御・最適化する重要性

デジタルトリプレットによって形式知化された判断ロジックや業務ルールを実際の業務フローに組み込み、デジタルが人やシステムに指示を出し、その結果をフィードバックする仕組みを構築します。これにより、現場担当者やスタッフ部門は、煩雑なシステム間連携や調整・確認作業に追われることなく、標準化・改善(カイゼン)の設計や、重要な意思決定に集中できるようになります。

ビジネスオーケストレーションプラットフォーム「TotalAgility」が果たす役割

実現基盤としての位置づけ

デジタルトリプレットとビジネスオーケストレーションを実行に移すための基盤が、「TotalAgility」です。TotalAgilityは、単なるワークフローツールではなく、「業務実行基盤」と「AI基盤」を融合した次世代のビジネスオーケストレーションプラットフォームです。

  • エンドツーエンド(E2E)の自動化:タスク単位ではなく、業務全体を横断的に自動化・制御
  • 生成AI/AIエージェントとの統合:独自のAI Knowledgebaseを構築し、現場ナレッジを引き出すAIを業務に取り入れる
  • 日本特有の業務への適応力:多能工、例外対応、複雑な承認ルートにも柔軟に対応

他ツールとの違いとエンタープライズ向けの価値

多くのRPAやAIツールが「特定作業の代行」に留まる中、TotalAgilityは業務の実行・管理・進化を支援する“マネージャー”の役割を担います。Gartnerのマジック・クアドラントにおいても、インテリジェントドキュメント処理(IDP)分野のリーダーとして評価されており(注2)、大手製造業が求める信頼性と拡張性を備えています。

まとめ:日本流DXを次の成長ステージへ

日本の製造業が「失われた30年」を脱し、再び世界をリードするためには、現場に蓄積された「知恵」をデジタル化し、組織全体でオーケストレートする仕組みが不可欠です。
デジタルトリプレットという思想を、ビジネスオーケストレーションという手法で具現化し、TotalAgilityという基盤で実行する──これが、私たちが提案するAI時代の製造DXアプローチです。

この構造が腹落ちし、社内の合意形成が進めば、日本の製造DXは継続的かつ加速度的に進化していくはずです。

「何から手をつければよいかわからない」「部門間の分断に悩んでいる」という企業こそ、まずは現場に眠る熟練者の判断基準を棚卸しするところから始めてみてください。貴社のDXを次のステージへ進めるにあたり、現場知のデジタル化と業務全体の最適化について、ぜひ一度ご相談ください。


(注1)東京大学大学院 工学系研究科 精密工学専攻 教授 梅田 靖 「日本型デジタルものづくり ― デジタルトリプレット」     https://share.google/H3gxlrqR41Pb4SdXB

(注2)オープン株式会社「Tungsten Automation社、2025年 Gartner® Magic Quadrant™ for Intelligent Document Processing Solutions においてリーダーの1社と評価」     https://rpa-technologies.com/news/information/12381/