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【金融DX】マネーロンダリング対策(AML)・不正検知を進化させるビジネスオーケストレーション
金融機関の成長を阻害し、経営資源を圧迫する要因の一つが、旧来型の金融犯罪対策です。しかし、この領域をDXの中核として捉え直すことで、リスク対応は単なるコストではなく、競争優位性を生み出すエンジンへと転換できます。
マネーロンダリング対策(Anti-Money Laundering:AML)や不正検知は、もはやコンプライアンス遵守のためだけの取り組みではありません。金融機関の信頼性、ひいては事業の持続性そのものに直結する、重要な経営リスクとなっています。
こうした問題意識を裏付けるのが、国際的な評価の変化です。日本は 2021 年に公表された第 4 次金融活動作業部会(Financial Action Task Force: FATF )対日相互審査において、40 の審査項目のうち 11 項目が不合格水準とされ、「重点フォローアップ国」という厳しい評価を受けました。この結果、日本の金融機関に対する国際的な監視の目は、これまで以上に厳しさを増しています。(注1)
この評価を受け、日本政府および金融機関は、2028 年に予定される第 5 次FATF 審査に向けて、官民一体で AML・不正検知体制の強化を進めることが急務となりました。(注2)一方で現場では、規制対応を高度化・効率化するために不可欠な、テクノロジーと法規制の双方に精通した人材の確保が難しいという課題に直面しています。その結果、限られた人材に業務と判断が集中し、運用負荷やコストの増大を招いています。
さらに近年は、貿易取引を悪用したマネーロンダリング(Trade-Based Money Laundering:TBML)の脅威が顕在化しており、従来のルールベース検知や人手による目視確認では、巧妙化・高度化する不正を見抜くことが極めて困難になっています。AML・不正検知は、制度対応の枠を超え、金融機関の業務構造や DX の進め方そのものが問われる段階に入っていると言えるでしょう。
なぜ個別最適の AI・RPA では限界なのか
金融 DX を阻む「分断」という構造的課題
多くの金融機関では、業務効率化を目的に RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)や個別のAIソリューションを導入しています。しかし、こうした「点の施策」だけでは、AML や不正検知のような複雑で横断的な業務課題を根本から解決することはできません。その最大の要因は、人・データ・プロセス・システムが依然として分断されたまま運用されている点にあります。
個別ツールの限界:対症療法では本質的な解決に至らない
・RPA の限界
RPA は定型的な「作業」を自動化するには有効ですが、不正の疑いを判断する非定型業務や、複数部門を横断するプロセス全体の連携・制御には対応できません。
・個別 AI の限界
特定の検知ロジックに特化した AI は、その範囲内では精度向上に貢献します。しかし、検知後の調査、報告、関係部門との連携といった業務プロセス全体(線・面)の非効率性や分断は解消されないままです。
結果として、各部門が導入したツールはそれぞれのサイロ内で完結し、人・データ・プロセス・システム・RPA・AIが組織全体で分断された状態が固定化されていきます。このような個別最適のアプローチでは、ある課題を解消しても別の工程や部門に新たな制約や非効率が生じ、問題が連鎖的に発生します。その結果、見えにくい運用コストが積み重なり、経営資源は恒常的な場当たり対応に費やされ続けることになります。
構造的課題への処方箋 ― ビジネスオーケストレーションという解決策
この構造的な「分断」を乗り越えるためのアプローチが、ビジネスオーケストレーションです。これは単なる自動化とは異なり、人・データ・プロセス・RPA・AI・各種システムをエンドツーエンド(E2E)で連携・統合し、業務全体を最適に制御する考え方です。
ビジネスオーケストレーションは、業務全体を俯瞰する「司令塔」として機能します。航空管制官が多数の航空機の動きを把握し、離着陸の順序やルートを調整するように、業務に必要なタスクやデータ、判断の流れを整理します。その上で、どの処理を AI が担い、どの判断を人が行うべきかを明確に定義し、プロセス全体を統合的に管理します。

これにより、業務の停滞や手戻りを防ぎながらプロセスが円滑に進行し、分断されていた業務は一つの流れとしてつながります。その結果、AI による一次判断と人間による高度な分析・意思決定が、適切なタイミングで連動する業務運営が可能になります。
そして、このビジネスオーケストレーションを実装するための中核プラットフォームが、「TotalAgility」です。TotalAgility は、複雑な業務プロセス全体を可視化した上で、AIやRPAといったデジタル技術を最適に配置・連携させ、真の全体最適を実現します。
ビジネスオーケストレーションが実現する次世代の金融犯罪対策―TotalAgility 導入例
ビジネスオーケストレーションプラットフォームTotalAgilityが、金融機関の業務をどのように変革するのか。ここでは 3 つの代表的なユースケースを紹介します。
① AML/不正検知(金融犯罪対策)の高度化
- 課題
従来のルールベース検知は誤検知(False Positive)が多く、その調査に膨大な工数を要していました。調査プロセスも担当者の経験に依存し、ナレッジが組織内に蓄積・共有されにくいという問題がありまし た。
- 解決策
TotalAgility の AI/機械学習(ML)、ドキュメント AI(書類改ざん検知)、ケース管理、動的ワークフローを組み合わせることで、検知から調査、タスク割り当て、当局報告までを単一プラットフォーム上で統合管理します。
- 導入効果
誤検知を 20%削減しつつ、手動チェックを最大 90%削減。AML 業務全体の運用コストを 25〜30%圧縮し、精度向上とコスト削減を同時に実現します。

② TBML(貿易金融マネーロンダリング)対策の抜本的効率化
- 課題
大量の紙書類に依存する貿易金融業務では、取引全体像の把握が難しく、TBMLの兆候を見逃すリスクが高い状態にありました。
- 解決策
TotalAgility のドキュメント AI が各種書類をデータ化し、NLP(自然言語処理)が内容を解析。エンドツーエンド(E2E)の業務オーケストレーションにより、関係者間の連携もシームレスになります。
- 導入効果
月単位でかかっていた処理期間を数日へ短縮し、不正チェックの自動化により貿易金融における不正リスクを70%以上削減します。

③KYC/融資審査における金融 DXと顧客体験向上
- 課題
契約審査(Know Your Customer:KYC)と融資審査が分断され、顧客の再入力負担や行員の手作業が増大。審査遅延や監査負荷の増加につながっていました。
- 解決策
AI が本人確認書類や決算書からデータを自動抽出し、TotalAgility のワークフローと RPA が審査プロセスを自動化・高速化します。
- 導入効果
融資判断を数日から平均 43 分未満に短縮し、KYC・不正チェック業務の自動化により大幅な工数削減を実現します。

金融DXの成否は「全体最適」で決まる ― ビジネスオーケストレーションが拓く未来
マネーロンダリング対策(AML)と不正検知は、もはや「守り」のコンプライアンス施策にとどまりません。業務プロセスを抜本的に再設計し、競争力を高める「攻め」の金融 DX を支える、重要な経営変革テーマです。
RPA や AI を個別に導入するだけでは、部門間の壁やプロセスの分断といった本質的な課題は解消できません。これからの金融機関には、プロセス全体を俯瞰し、人・データ・プロセス・システム・RPA・AIを横断的に統合・最適化する「全体最適」の視点が不可欠となります。
TotalAgility が実現するビジネスオーケストレーションは、単なる IT の刷新ではなく、将来の市場変化や規制環境の変化に柔軟に対応するための経営基盤そのものです。AI が定型業務や一次判断を担い、人は高度な分析や例外対応、最終的な意思決定に集中する――この協業モデルこそが、金融機関の競争力と持続可能性を左右する鍵となります。
分断を乗り越え、全体最適の視点で変革に踏み出すこと。それが、金融DXを着実に成功へと導く、最も確かな道筋です。
(注1)財務省「FATF(金融活動作業部会)対日相互審査報告書が公表されました」(2021年8月30日) https://www.mof.go.jp/policy/international_policy/convention/fatf/fatfhoudou_20210830_1.html
(注2)金融庁「マネー・ローンダリング等及び金融犯罪対策の取組と課題」(2025年6月) https://www.fsa.go.jp/news/r6/20250627/01.pdf